高野山蓮華曼荼羅絵図【寺宝解説】

高野山蓮華曼荼羅絵図(こうやさんれんげまんだらず)写本/江戸時代

 本絵図は1本の蓮華で高野山を表したものです。私の師匠の日野西眞定(ひのにし しんじょう)先生が、そのように命名しました。この系譜の絵図は、高野山内の寺院では時々見られるものですが、清浄心院所蔵の本図は蓮華をリアリティに表現し、しかも著色していて他には類例がありません。紙本著色のものです。
 絵図の構図は、向かって左端の上部に高野山の山麓の慈尊院(九度山町)を蓮華の葉として、そこから茎を伸ばしています。茎が高野山への表参道である町石道を表しています。そして、茎は高野山の総門である大門を経て、中心の壇上伽藍を八葉の蓮華の花として象徴させています。さらに、その花から蓮華の葉と茎を伸ばして、右上に奥之院を三弁の蓮華の花としています。
 高野山が浄土の世界であることを、一目で分かるように、演出された絵図なのです。浄土の世界といえば蓮の花の蓮華です。高野山が、この世に現れた浄土世界であることを誰でも分かって頂けるように出来た絵図、それがこの高野山蓮華曼荼羅絵図なのです。ここで言う曼荼羅とは、「全てが揃っているもの」という意味になります。
 本絵図で先ず注目されるのが、中央の八葉の蓮華の花のところに記された一文です。「此上ニ一度登佛成功徳也」とあります。つまり、「壇上伽藍に登り参拝すれば、成仏します」と謳っているのです。
 高野山登山をして、参拝をする目的はまさにこのことにあったのです。本絵図の右端にも「高野山者三世諸仏浄土金胎不二曼荼羅」(こうやさんはさんぜしょぶつじょうどきんたいふにまんだら)と明記しています。三世諸仏とは「過去・現在・未来の3世にわたって存在する一切の仏」のことです。高野山は様々な仏で満ち溢れて、金剛界と胎蔵の曼荼羅世界なのですと明言しているのです。
 さらに、「一度参詣高野山無始罪障道中滅」(いちどさんけいこうやさんむしざいしょうどうちゅうめつ)と記しています。これは、一度でも高野山へ参拝すると自身の中にある、浄土へは行けない様々な成仏の障がいとなる罪業を消滅させることが出来ますと、最大の功徳を明示しているのです。
 これから、夏となる時候、蓮華の花も咲き乱れます。私たち一人ひとりの心の故郷である高野山へ、お運び頂けたら幸いです。是非その際には、本絵図を清浄心院で直接ご覧下さい。 木下浩良