銅製蓮華式香炉【寺宝解説】

銅製蓮華式香炉(どうせいれんげしきこうろ)/江戸時代

江戸時代末期の銅製蓮華式香炉(どうせいれんげしきこうろ)です。現在、未公開の廿日大師堂にて、年に1回だけ香が焚かれる貴重な香炉です。

高さ35cm/底径25cm
江戸時代末期/安政2年(1855)制作/銅製品

 香炉全体を蓮の花びらの「蓮弁(れんべん)」として作っている。高台は蓮弁を逆さまにした反花(かえりばな)で、蓋には「オン・バ・ザラ・ダ」の梵字を透彫りする。香炉の灰には別に銅製で作られた梵字の「キリーク」印があり、それを灰から印刻される。香灰が「キリーク」に陰影されて、その印影に香が敷かれて焚かれる仕組みとなっている。梵字は蓋と香灰を繋ぐと「オン・バ・ザラ・ダ・キリーク」となり、千手観音菩薩の真言となる。とても意匠を凝らした製品となっている。
 千手観音菩薩のご利益としては、「 災難から身を守る」「強力な厄除け」「病気の治癒」「現世利益の獲得」「夫婦仲の改善、円満」「恋愛成就」などが挙げられる。
 蓋の先端には蓮の実をつけた金剛杵(こんごうしょ)を付けていて、その蓮の実の孔からも香の煙が出る工夫がなされている。銘文は高台の下に右から左へ横書きに、「于時安政二卯年新調 大坂遍照院高野山青雲院慈光院各一代快静仁山 数三新調寄附三院 本納丹生院本尊阿弥陀如来宝前」とある。元は、清浄心院に隣接された寺院の丹生院(たんじょういん)の什物で、同院本尊の阿弥陀如来の前に置かれていた香炉と分かる。銘文には、本香炉を寄附したのが「快静房仁山(かいせいぼうにんざん)」という僧侶で、その僧侶自身が住職を勤めた大坂遍照院・高野山青雲院・高野山慈光院の三院にも、同じタイプの香炉を寄進したことを明記している。「新調」とあることから、本香炉以前にも同様の香炉が先行して存在したことが知られる。清浄心院では、毎月20日の日に、廿日大師堂において、本香炉より香が焚かれる。
 なお、本作と酷似した遺品が京都・法金剛院所蔵の国指定重要文化財(京都小栗博物館寄託)の野々村仁清(ののむら にんせい)の作とされる江戸時代初期の陶製の古清水色絵蓮華式香炉である。木下浩良