高野山霊宝館長インタビュー

大森照龍 高野山霊宝館長インタビュー 〜春季企画展について

 5月19日、大森照龍高野山霊宝館長に同館で開催中の企画展について私木下がお話をうかがいました。これは本年度春期企画展として「金剛峯寺―その成立と宝物」と題されて、4月20日から7月15日までの期間開催されているものです。本年1月19日、金剛峯寺境内にある大主殿など12棟の建造物が国の重要文化財に指定されたことを記念して開催されています。
 大森館長は今回の特別展の注目すべきものとして、国指定の重要文化財の愛染明王坐像・重要文化財附属資料の青巌寺棟札と同じく真然堂棟札の3点の本邦初公開のものを挙げられました。
 中でも愛染明王坐像について、作られたのが江戸時代であるにも関わらず、作風が鎌倉時代であることの素晴らしさを解説していただきました。本像は、今は金蔵院の所蔵ですが元は青巌寺(せいがんじ)の持佛堂本尊です。青巌寺とは、現在の金剛峯寺の元となった寺院です。豊臣秀吉が母の大政所のために建てた豊臣家の寺院のことです。江戸時代の仏像が、重要文化財に指定されることは珍しく、本像の貴重さを示しています。

 次に棟札(むなふだ)とは、建物の建設の棟上げのとき、工事の由緒・年月日・建築者・工匠などを記して、棟木に打ちつける札のことです。青巌寺の棟札は現在の建物を建てた時の江戸時代のものです。秀吉が建てた創建当時の青巌寺は焼失してしまいましたが、秀吉の時代のままに再建されています。
 真然堂(しんぜんどう)とは、弘法大師が奥之院に入定された後に、高野山の二世として高野山を統治した弘法大師の甥の真然(しんぜん)を祀るお堂のことです。ここからは、実際に真然の遺骨が入った蔵骨器が発掘されました。真然堂は金剛峯寺の裏山にあります。
 本特別展では、明治時代に総本山金剛峯寺が設立された成り立ちが紹介されて、高野山の1200年の時代の移り変わりを感じられる至宝を展示している、と大森館長は話されていました。
 その他の展示物で木下が特に注目するのが、岩手県の中尊寺から高野山へ搬入された紺紙金銀字一切経(中尊寺経)です。同経は、秀吉か秀吉の甥の秀次が中尊寺から高野山へ寄進したものと考えられています。中尊寺経は奥州藤原三代の一人の藤原清衡(ふじわらのきよひら)が中尊寺に奉納した経典群5000巻程のボリュームのものです。そのほとんどが今も金剛峯寺に現存します。同経は、清浄心院でも3点が調査により見出されました。これまでにも数度清浄心院でも公開しましたが、秋の清浄心院寺宝展でも再度同経を展示する予定です。ご期待下さい。

 なお現在、清浄心院においても高野山霊宝館の本企画展に呼応しまして、6月1日から夏の寺宝展として、所蔵の「高野山蓮華曼荼羅絵図」を展示しています。この機会に、清浄心院へもお運びいただき一本の蓮華で象徴的に描かれた高野山の様子をご覧下さい。同絵図は他の高野山の塔頭寺院からも見出されていますが、清浄心院のものは全体が著色されていて、まさに蓮華そのもので現されたその姿は綺麗でもあり、是非ともご覧いただけることをおすすめ致します。

清浄心院・高野山文化歴史研究所所長 木下浩良

大森館長のおすすめ
重要文化財 愛染明王坐像(青巌寺持佛堂本尊)金蔵院
重要文化財附属資料 青巌寺棟札
重要文化財附属資料 真然堂棟札

 木下所長のおすすめ
国宝 紺紙金銀字一切経(中尊寺経) 金剛峯寺

霊宝館の展覧会情報
高野山霊宝館 春期企画展「金剛峯寺―その成立と宝物」