霊宝館「高野山と世界遺産」展の紹介

大森龍照霊宝館長に聞く「高野山と世界遺産」展の見どころ

高野山霊宝館では今年が、高野山町石道と金剛峯寺境内が「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として、ユネスコの世界遺産に登録されて20周年を迎えたのを機に、令和6年度秋期企画展「高野山と世界遺産」を企画されました。期間は来年1月13日までの開催です(12月28日(土)~ 1月4日(土)は休館日)。この展覧会に合わせ、高野山霊宝館の大森館長にお話をお聞きしました。

 今回の展覧会では、世界遺産にスポットが当てられて、世界遺産区域にまつわる文化財をはじめ、昔から高野山には全国各地から宝物が集められましたが、その中からも高野山以外の世界遺産にゆかりの深い文化財もあわせて展示します。大森龍照霊宝館長は、今回の展示の中でも、国宝の空海直筆の「聾瞽指帰」を最も重要なものだと指摘されました。展示期間は10月19日から11月10日までの限定されたものでしたが、大森館長は日本書道史における空海の書の影響力の大きさを述べられました。
 空海以前の書は唐風のものですが、空海以降は和風のものになり、その大きな一因が筆によるもので、空海が狸の毛による筆を使用したことを大森館長は挙げられました。それ以前は兔の毛による筆が使用されていたとご教示いただきました。兔毛の筆→狸毛の筆へと筆記用具そのものの変遷があったのでした。
 このことは非常に注目されます。空海といえばこの他にも、書き記す媒体そのものに対しても、それまでにない新たなものでの使用が認められます。もちろん、「紙」に記すことには違いはないのですが、それまでの紙の媒体としては装丁されたものは巻物【専門用語で巻子本(かんすぼん)といいます】だけでしたが、空海は現在の手帳に近い新たな装丁の媒体を創作しているのです【専門用語で粘葉装(でっちょうそう)といいます】。
 巻物は最初の部分を見るのは問題ありませんが、半ばとか最後の部分を見るにはぐるぐる巻いて該当部分を見ることになります。大変、不便です。その点、手帳でしたらそのような手間がいりません。空海といえば、嵯峨天皇・橘逸勢とともに「三筆」の一人として有名ですが、それが我が国をはじめ世界の筆記用具の道具そのものにも関わっていたのでした。

本企画展の主な展示物は以下のようです。
国宝       紺紙金銀字一切経(中尊寺経)
国宝       又続宝簡集109 高野山大湯屋釜鋳勘録状(断簡)
国宝       又続宝簡集30 御室御所高野山御参籠日記
重文       伝熊野曼荼羅図   龍泉院
重文       一字金輪曼荼羅図 遍照光院
重文       高麗版一切経
重文       町石建立供養願文
重文       成身会八葉蒔絵厨子
重文       天野社舞楽装束

文:木下浩良

高野山霊宝館の特別展
https://www.reihokan.or.jp/tenrankai/list_tokubetsu/2024_10.html