清浄心院&味吉兆 第4回精進料理会のご報告

新しい精進料理


旬の食材を使い、それを味わうことで季節を寿ぐ懐石料理。ミシュランガイドで「四季の移ろいを映した料理は美しい」と高く評価された大阪の名料亭『味吉兆』と『清浄心院』がコラボレーションし、令和7年4月6日、7日の2日間にわたって精進料理会を開催しました。この料理会は『味吉兆』中谷隆亮料理長をお招きし、高野山麓の農家や生産者のもとを訪ねて旬の食材を探求する取り組みとして、2022年から開催されてきました。また今日『清浄心院』で提供している精進料理はこうした過去の料理会や勉強会の中から生まれてきました。


4回目となる今回の精進懐石料理は、わらび、せり、うどなどの山菜やわかめなど、春の食材をふんだんに使用したお膳となりました。とりわけ目を引いたのは、たっぷりとした大きな器に乗った高野豆腐と筍、山菜や野菜の焚き合わせです。高野山の麓で採れた菜の花をはじめ、柔らかく炊き上げたごぼう、出汁が染み込んだ肉厚の椎茸と筍、高野豆腐、和歌山・田辺市から届いた木耳などで構成され、それぞれの素材が持つ味わいと滋味深い精進出汁をじっくりと堪能することができました。

また、筍やわらびを具にした精進春巻き、高野山の麓でつくられた、しかもできたての蒟蒻と高級食材黒あわび茸の田楽、わらびとせり、ふきが入った山菜のおこわなど、まだ凛とした空気が漂う高野山に春の足音を伝える料理の数々が供されました。

今回の料理会は、初日は夜に、二日目はランチ時に開催されました。野菜や加工品の生産者も集い、中谷料理長と共に一次産業を続けていくにあたっての課題やこれからの食のあり方について思いを馳せ、語りあうひと幕もありました。

精進料理を味わう

今回の料理会で提供された精進料理を、『味吉兆』中谷隆亮・主人が解説してくださいました。

本膳

小鉢 トマトの蜜煮/揚物 精進春巻き

一つひとつ丁寧に湯むきしたプチトマトを白ワインと少量のお砂糖で蜜煮にしました。なるべくプチトマトが本来持っている甘さを活かすようにお砂糖は控えめに仕上げました。精進春巻きは、筍やわらびなど旬のものとペースト状にした豆腐をつなぎにして、春巻きの皮で包んでカラッと揚げたものです。和の食材を中華の手法で調理するという意外性をお楽しみいただけたら幸いです。

造り変り お麩の照焼き

これまでの料理会で毎回好評をいただき、今では清浄心院の定番として召し上がっていただける生麩の照り焼きです。さっと油で焼き、砂糖醤油のタレを絡めています。生麩独特のもっちりとした食感をお楽しみください。

田楽 蒟蒻、黒あわび茸の田楽

高野山麓で手作りされたできたての蒟蒻と、和歌山の紀の川流域でつくられている黒あわび茸を味わう田楽です。蒟蒻も黒あわび茸も食感が何といってもご馳走です。今回は、八丁味噌と一緒に召し上がっていただきました。

酢物 独活、若布の酢物

春の季語としても知られるワカメは和歌山・加太の沖あいでとれる天然物を使用しました。白く透き通るような独活ととり合わせて、酢の物にしています。見た目も食感もコントラストのあるひと品です。

甘味 あんぽ柿と白餡

高野山の麓では年中を通してさまざまなフルーツがとれますが、中でも柿は全国一位の生産量です。種の部分をくり抜いて、特製の白餡を詰めました。あんぽ柿が持つ上品な甘さに寄り添うような、舌にも体にも優しい甘味をご堪能ください。

二の膳

お椀 蓮根餅の清汁

蓮根餅はすりおろした蓮根の水分をギュッと絞り、さっと油で素揚げしたものです。アクセントに松の実を入れました。精進料理は植物性のものしか使いませんが、こうして素揚げした具材があると満足感を感じていただけると思います。

ご飯 山菜のおこわ

高野山麓は山菜の宝庫。今回のご飯は山菜づくしのおこわです。土から頑張って芽を出した山菜は独特の苦味がありますので、ていねいにアクを抜きます。わらび、せり、ふき、木の芽のシャキシャキした歯応えが春らしさを感じさせます。

香の物

白菜のお漬物と、紀州大根のお漬物「紀の川漬」は、紀の川流域でよく食べられている郷土の味です。

焚合せ 高野豆腐と筍、山菜の焚合せ

「季節のものをたっぷりと召し上がっていただきたくひと品を考えて欲しい」という清浄心院さんのリクエストから生まれました。和歌山・田辺産の白木耳と黒木耳、堀川ごぼう、筍、にんじん、ほうれん草、菜の花、高野豆腐、こんにゃくで構成した焚合せです。

三の膳

 拍子木綿豆腐白味噌仕立て

拍子木に似た形に切った木綿豆腐をさっと油で揚げて、タンパク質をとっていただきたいのでたっぷりの湯葉と合わせたお鍋です。しっかりとしめじと昆布でとった精進の出汁に、コックリとまろやかな白味噌がよく合います。

 早いもので2022年から開催しているこの料理会の開催は、今回で4回目を迎えました。普段、店では昆布とかつおでひいたお出汁を使用しています。この出汁が日本食の基本なのですが、本料理会は精進料理ということで、出汁も100%植物性、化学調味料の添加は一切なしでおつくりしています。この条件の中でお客様にどのようにお楽しみいただけるかが、毎回心を配るところであります。今回は、清浄心院様からは高野山麓の野菜をふんだんに食べられる焚き合せをリクエストいただきました。この焚き合せは、今後はランチや宿坊にお泊まりになった際に定番メニューとして召し上がっていただける予定です。

 幸いにも和歌山県は山深いことから、木の子の栽培や山菜、また斜面に植っている蒟蒻芋を掘り起こしてつくる手づくりのこんにゃくなど、山間部の食材が豊富です。端境期でもこうした山の恵を味わえることは本当にありがたいと思います。

 お米の価格が高騰している昨今、気候変動で農作物を安定して収穫することが難しい時代です。このような中で農家さんが一生懸命つくられた食材は大変ありがたく貴重なものです。料理会で生産者さんと直接お話しさせていただき、農が抱える課題も伺いました。私たち料理人も無駄なく食材を使い切るように、日々工夫をこらしながらが料理しなければ、と改めて思った次第です。


中谷隆亮(なかたにりゅうすけ)
『味吉兆』代表取締役。高級料亭『吉兆』の創業者・湯木貞一氏から暖簾分けを許可された『味吉兆』初代・中谷文雄が実父。大学卒業後は『東京吉兆』で3年間修業した後、先代の元で研鑽を積みながら二代目に就任。先代が『吉兆』から受け継いだ“世界へ誇る日本の食文化”を守り、国内外へ普及させていくため尽力している。現在、大阪市内にて『味吉兆 ぶんぶ庵』『味吉兆 堀江店』を経営。二店舗とも長年ミシュランガイドで星を獲得している。

写真/清水いつ子 
取材・文/ヘメンディンガー綾